「日本の時計の最高峰」と称されるグランドセイコー。
その卓越した精度と堅牢性、そして息をのむような美しい仕上げは、世界中の時計愛好家から高く評価されています。
しかし、どんなに精巧な時計でも、使用環境や経年変化によって「買った時ほど精度が出なくなった」と感じることはあります。
もしあなたのグランドセイコーの精度が気になり始めたら、それは故障のサインかもしれませんし、あるいは簡単な対処で改善することもあります。
この記事では、グランドセイコーの精度が出なくなる主な原因を徹底解説し、ご自身でできる確認方法から、専門家による調整・修理のポイント、そして費用と期間の目安までを網羅的にご紹介します。
グランドセイコーが誇る「精度基準」とは?

メカニカル(機械式)モデル
静的精度:平均日差 +5秒〜-3秒(携帯時)
これは、ムーブメント単体ではなく、時計として完成した状態で計測される非常に厳しい基準です。
スプリングドライブモデル
平均月差 ±15秒(平均日差 ±1秒相当)
機械式とクォーツのハイブリッド機構であり、クォーツに匹敵する、あるいはそれ以上の高精度を実現しています。

グランドセイコーの精度が出ない主な原因
愛用のグランドセイコーの精度が狂う原因は、一つではありません。
考えられる要因を理解することが、適切な対処への第一歩です。
磁気帯び(最も多い原因の一つ)
現代社会は磁気製品に囲まれており、スマートフォン、PC、タブレット、スピーカー、IHクッキングヒーター、バッグのマグネットホックなどに時計が近づくことで、ムーブメント内部のヒゲゼンマイが磁気を帯びてくっつき、時間の進みや遅れが発生します。
症状 急激に時間が進む(数分〜数時間単位で日差が大きくなる)。場合によっては止まることも。
特徴 磁気発生源から離しても精度が戻らない場合がある。
衝撃・落下
時計を落としたり、ぶつけたりといった強い衝撃は、ムーブメント内部のデリケートな部品(テンプの軸、ヒゲゼンマイ、歯車など)にダメージを与え、精度不良や動作停止の原因となります。
症状 突然の進み・遅れ、または完全に止まる。
特徴 衝撃後に症状が出ることが多い。
姿勢差による影響
機械式時計は、時計の向き(文字盤上、下、リューズ上、下など)によって重力の加わり方が異なり、精度にわずかな差が生じます。これは機械式時計の特性であり、完全にゼロにすることはできません。しかし、特定の姿勢で極端なズレが生じる場合は、調整が必要な場合があります。
症状置き方によって日差が大きく変動する。
使用状況・巻き上げ不足
- 巻き上げ不足:自動巻き時計は、着用者の腕の動きによってゼンマイが巻き上げられます。デスクワークが多いなど、腕の動きが少ないとゼンマイが十分に巻き上がらず、パワーリザーブが不足して精度が不安定になったり、止まったりすることがあります。
- 長期間の不使用:長期間使用せず放置すると、内部の潤滑油が固着し、動作不良や精度低下の原因となります。
油切れ・部品の摩耗(オーバーホールが必要なサイン)
時計内部の潤滑油は、経年と共に劣化・乾燥します。油切れが進むと部品同士の摩擦が増え、摩耗が進行し、精度低下や動作不良を引き起こします。これはオーバーホールの最も一般的な理由です。
症状徐々に精度が悪化する、パワーリザーブが短くなる、異音がする、最終的に止まる。
特徴 長年オーバーホールをしていない時計に多く見られます。
温度変化
極端な高温や低温の環境は、ムーブメントの金属部品の伸縮に影響を与え、精度に狂いを生じさせることがあります。グランドセイコーの多くは温度変化への耐性も考慮されていますが、急激な変化は避けるべきです。
自分でできる簡単な調整・確認方法
精度が気になり始めたら、まずはご自身で簡単にできる確認と対処を試してみましょう。
磁気帯びの確認と簡易磁気抜き
- 確認方法: 方位磁石を時計に近づけ、針が大きく振れるようであれば磁気帯びの可能性があります。
- 簡易磁気抜き: 専用の安価な簡易磁気抜き器(数千円程度)を使って、ご自宅で磁気抜きを試すことができます。ただし、完全に磁気が抜けない場合や、逆効果になるリスクもゼロではありません。
ゼンマイの巻き上げ不足の解消
自動巻き時計の場合、時計が止まっている、あるいはパワーリザーブが不足していると感じたら、リューズを回して手巻きで十分にゼンマイを巻き上げてみましょう(モデルによるが40〜60回程度)。その後、数日間の日差を計測してみてください。
姿勢差の考慮
夜間に時計を外して保管する際、日中に遅れが目立つ場合は文字盤を上にして置く、進みが目立つ場合はリューズを上にして置くなど、様々な姿勢で日差を観察してみましょう。
正確な日差の計測方法
時計アプリや専用ツールを使って、24時間ごとの正確な日差を数日間にわたって記録しましょう。これにより、日差の傾向を正確に把握し、問題の切り分けに役立ちます。
専門家による調整・修理のポイント
上記で改善しない場合や、長期の使用による精度不良の場合は、専門家による診断と修理が必要です。
オーバーホールの必要性とその時期
グランドセイコーのメカニカルモデル、スプリングドライブモデルともに、3〜5年に一度のオーバーホールが推奨されています。これは、内部の潤滑油の劣化や部品の摩耗を防ぎ、最適な性能を維持するために不可欠です。
オーバーホールの内容
- ムーブメントの分解、洗浄、注油、調整
- 部品の点検、摩耗部品の交換
- ケース・ブレスレットの洗浄、点検
- 防水パッキンの交換、防水検査
- 最終的な精度・機能検査
グランドセイコー正規サービスでの修理
グランドセイコーの正規サービス(セイコーウオッチお客様相談室やサービスステーション)に依頼する最大のメリットは、純正部品の使用とメーカー基準の品質保証です。
メリット
- グランドセイコーの専門知識を持つ技術者による修理。
- 純正部品のみを使用し、交換した部品は返却されない場合が多い(メーカーで管理)。
- 修理後の長期保証(通常2年間)。
- 時計の修理履歴が正規サービスに記録される。
デメリット
- 費用が高額になる傾向。
- 修理期間が長くなる傾向(数ヶ月〜)。
- ヴィンテージモデルの場合、一部の部品が供給終了している場合や、オリジナル性を損なう修理になる可能性も。
一般の高級時計修理専門店での修理
専門の修理工房を持つ高級時計修理専門店も、グランドセイコーの修理に対応しています。
メリット
- 正規サービスより費用を抑えられる場合が多い。
- 修理期間が短い傾向にある。
- ヴィンテージモデルのオリジナル性を尊重した修理や、部分修理に対応可能な店もある。
- 職人と直接相談できる場合がある。
デメリット
- 技術力や使用する部品(純正品か汎用品か)が店舗によって大きく異なるため、慎重な選定が必要。
- 修理保証期間が正規より短い場合が多い(通常1年間)。
選び方のポイント
「時計修理技能士」の資格を持つ職人が在籍しているか、グランドセイコーや国産高級時計の修理実績が豊富か、見積もりと説明が丁寧かなどを確認しましょう。
グランドセイコーの修理費用と期間の目安
具体的な費用と期間は、モデル(メカニカル、スプリングドライブ、クォーツ)、ムーブメントの種類、故障内容、依頼先によって大きく異なります。
オーバーホール費用相場
グランドセイコー正規サービス(セイコーウオッチ)
メカニカルモデル | 40,000円〜70,000円程度 (クロノグラフやGMTなど複雑機構は高くなる) |
スプリングドライブモデル | 50,000円〜80,000円程度 |
クォーツモデル | 20,000円〜30,000円程度 |
(部品交換が必要な場合は別途加算。複雑機構やヴィンテージモデルは高額になる傾向)
一般の高級時計修理専門店
メカニカルモデル | 25,000円〜50,000円程度 |
スプリングドライブモデル | 35,000円〜60,000円程度 |
クォーツモデル | 10,000円〜20,000円程度 |
(部品交換が必要な場合は別途加算。正規よりは安価な傾向)
修理期間の目安
グランドセイコー正規サービス:
約1ヶ月〜2ヶ月
部品取り寄せや特殊な修理の場合、さらに数ヶ月かかることもあります。
一般の高級時計修理専門店
2週間〜1ヶ月程度
在庫部品がある場合や、自社工房を持つ店舗では比較的迅速な対応が期待できます。
まとめ:グランドセイコーの精度維持は「適切なケア」から
「グランドセイコー」の精度が出ないと感じたら、まずは磁気帯びや巻き上げ不足など、ご自身で確認できる点を試してみましょう。
それでも改善しない場合は、内部の油切れや部品の摩耗が原因である可能性が高く、専門家によるオーバーホールが必要です。
大切なグランドセイコーの素晴らしい精度と性能を長く維持するためには、「3〜5年に一度の定期的なオーバーホール」が最も重要です。
正規サービスと専門店のメリット・デメリットを理解し、ご自身の時計の状態とニーズに合った最適な修理方法を選び、信頼できる技術者に愛機を託しましょう。
